TokoTokoChihoChiho’s diary

短歌と短文、たまに長文、書いてます。

引っ越し(8)(以前のブログから移動)

バゲットを待つやうに待つわが父の焼きあがり時刻午後四時三十分


父はいま燃えてをらむよ菓子あまた皿に盛られて水色ももいろ
                
                       高木佳子『青雨記』より
 
或る日、父と母の歌を詠んだら、「両親のことが大好きなひとよりもあまり好きでないひとのほうが、よく父や母のことを詠むんですよ。」と言われた。痛いところをつかれたと思った。父と母が出会ったからわたしが存在するのだけれど、母は、父と出会って幸せだったのだろうかとよく考える。母にとってはそうでない人生のほうが良かったのではないかと思うのだ。母にとっての別の人生を想うとき、わたしの存在は少しずつ薄くなって、もやのように頼りないものとなる。
 
母に感謝はしている。産んでくれてありがとう。でも、父ではない誰かを選んで、あなたはもっと幸せになってもよかったんじゃないの、とも思う。そうなっていれば、わたしではない誰かがこの世に誕生していたのか?
 
まったく、「存在」というのは、なんて不確かなものなんだろう。