引っ越し(9)(以前のブログから)
仰向けに逝きたる蟬よ仕立てのよい秋のベストをきっちり着けて
杉﨑恒夫『パン屋のパンセ』より
先日(12月)、目の前を通ってゆくものがあった。ふわっとはかなげだったが、ギョッとした。「蚊」だった。その話をSNSに投稿したら、「こちらでは蠅が飛んでいました」と広島の友人が返してきた。
地球温暖化が顕著になったから、そのうち、秋どころか、「冬に鳴く蟬」もあらわれるかもしれない。でも、その個体が、長年を土の中で過ごして、地上に出てから一週間ほどで死んでしまうことにはかわりがないだろう。蟬の寿命が延びたりはしない。やはり、四角いからだを挟むようにぴったりと翅を閉じて死んでしまうのだろう。
「蟬の死」なんてよく詠われるから詠うのはやめなさいという人もいたが、どれほど多く詠われていることでも、新しい歌はできるのだ。