歌集『光のアラベスク』(松村由利子)より
小さくて可愛い足が好まれるシンデレラまだ人気を保つ
ひたひたと迫り来るもの漱石も徴兵逃れをしたという説
詩を問われ詩人は答う「一滴の血も流さずに世を変えるもの」
戦争のレシピ手を替え品を替え出てくる世紀彩りもよく
パール・バック知らない若い人といて知識はそうね皺に似ている
最新歌集である。
もっと読みこんでから選ぼうと思ったが、ここのところ、「戦争しなければ云々・・・」などと物騒なことをいう議員などもいて、取り急ぎ心に刺さったものを選んだ。
適当なところで忘れてしまおうとしていることや、中途半端なままで「まあいいか」と思っている自分のいい加減さが恥ずかしくなるような歌も多かった。
ところで、わたしは、足が大きい。足が大きいから余計に、シンデレラが羨ましく、その靴に憧れた。どこでみつけたのか忘れたが、ある日、陶器の小さな靴を買ってもらった。もちろん、調度品である。それを眺めながら、そういう童話を自然に受け入れて、「どこかに王子様が待っているのだ幻想」を持ったまま、成人したような気もする。
しかし、一点の曇りもなく、それを信じていたわけではない。私の傍らには、モーパッサンの「女の一生」やパールバックの「大地」を読め!という(無理やり読ませる)母がいた。母も実はシンデレラになりたかったのに、世の中そんなに甘くないということを知っていたのだ。
結婚してみると、これはやっぱりモーパッサンの「女の一生」に近い!と、母は思ったらしい。だが、戦時中の疎開児童して味わった苦しみに比べれば、たいしたことはないともいう。
戦争ほど、おそろしいものはない!という母は今年で八十八。
もう一度戦争体験を訊いて、今度はメモしておこう。