田村 元歌集『昼の月』より
角瓶をボトルキープの眠りから起こす 氷がぴきぴきと言ふ
はぐれ刑事の藤田まことがスナックに寄るころ祖父も飲み始めたり
週五日はたらき四日酒を飲み炭酸泉にしづむ週末
居酒屋に行けない日々はのつぺらぼう仕事に区切りがなかなか付かず
いつものように自分語りで申し訳ないが、私はほとんどお酒を飲まない。26歳で結婚してから飲まなくなった。理由は簡単。夫が、アセトアルデヒド還元不能、すなわち飲めないからである。独酌するほど酒好きではなかったので、いつのまにか飲まなくなった。
でも、飲みたくなった。「昼の月」を読んでいて、たまらなく懐かしくなった。よく飲んでいた日々、二十歳すぎの世間知らずであるがゆえに、怖いもの知らずで、学生仲間でわいわいいいながら、酔っぱらっていた日々が無性に懐かしくなったのである。
そうそう、氷にお酒をいれたらぴきぴき言うよねえ、話しかけてくるみたいだよねえ、藤田まことみたいなおじさんも、カウンターに座っていたよ。試験が終わったり、学生大会が退けたりすると、「よし、飲みに行こうぜ」を合言葉に4-5人集まって、安いお酒を飲みに行った。角瓶なんて贅沢で高値の花だったなあ。。。
職場に復帰して、歓送迎会や慰労会などに誘われて、たまには参加したけれど、もう、学生時代のようには飲めなくなっていた。厚かましくて迷惑な女子学生のときには戻れなかった。
田村さん、家庭生活の変化も詠まれていて、決して楽しいことばかりではないとわかるけれど、それでも、田村さんのような飲み方が、少し羨ましい。
コロナ禍が過ぎ去りしのちは、ほんのちょっと真似してみようか。
哀しみとユーモアが混ざり合って、ほどよく酔える歌集です。