TokoTokoChihoChiho’s diary

短歌と短文、たまに長文、書いてます。

引っ越し(12)(以前のブログから)

珈琲ショップの片隅で

 

12月のある土曜日の昼下がり。コーヒーショップの隅の席に陣取った。お隣りは、部活帰りの女子高生のようだ。小柄でおさげ髪。少し黒木華に似ていた。店内は満席だったが、土曜の午後らしいのんびりとした空気が流れていた。

ほっとしてコーヒーにひと口触れたそのとき、

「ここ、座らせてもらっても ええ?」

と高齢の女性が声をかけてきた。

私にではなく、お隣の女の子に、である。

「どうぞ」

という彼女からは何の躊躇いも感じられなかった。

「わるいなあ。空いてるとこがないんでな。」

というおばあさんに、

「いえ、ひとりでは淋しかったので。」

と笑った。

おばあさんが、覚束ない足取りで注文カウンターにいったとき、女の子に声をかけた。

「やさしいね。」

すると、

「そんなことは・・・。ただ、ここのお店にはよく寄らせてもらってるので・・・」

と答えた。

よく寄らせてもらっているから、ここのお店のお客さんにもお世話になっている?ということなのだろうか。わからないけれど、だれか困っているひとがいたら、ごく自然に助けてしまうタイプなのだろうと思った。

しばらくして、コーヒーを飲み終えたわたしは、斜め向かいのおばあさんに、

「よかったら、こちらへどうぞ。」

と声をかけたけれど、

「ああ、どうも。」

と言っただけで、席をかわろうとはしなかった。

店を出ようとするわたしに、おさげ髪の彼女は、口元をゆるませ軽く会釈した。

あなたに、また、会いたいな。