TokoTokoChihoChiho’s diary

短歌と短文、たまに長文、書いてます。

りとむ 2021.3月号より  熊のおなか

イシカワで撃たれた熊のおなかには柿、マテバシイ秋がいっぱい

きいろ熊にあか熊白熊あまたなる落ち葉のかたちに散って重なる

                       北川美江子

 

りとむ「今月の十首詠」に選ばれた作品から二首。

 

これは・・・と思う歌に出会うと、急にこみあげてくるものがある。あくまで自分にとって、であって、他の人にとってはどうなのかはわからない。とにかく、突然、横たわった熊が目の前に現れて、冬ごもりの準備で満たされたお腹が冷たくなってゆくのだ。耐えられない光景だった。

 

10数年ほどまえ、非常勤で現代社会という教科を担当したことがあって、地球環境問題なども解説しなければならなかった。当時、アル・ゴア氏がその緊急性を訴えていたが、否定する研究者や政治家も多くて、全人類的にみて危機感を共有していたとは言い難い。生徒にとっては、「京都議定書」も覚えなければいけない現社用語、くらいの位置づけだったのかもしれない。このままではいけないのだ、ということをどうしたら伝えられるのだろうか、と苦慮していたとき、同じく現社を担当していたHさんが、吐露した。

「わたし、環境問題って嫌いなんですよ。とっても嘘っぽいじゃないですか。どうやって生徒に話すんですか。持続可能な社会ですか? 自然を大切に?地球も守り、経済も発展させて、人間が幸せに暮らせる? 噓でしょう。嘘だと思いませんか? 地球環境を壊してるのは人間ですよ。地球にとって、ほんとにいいのは、人間が減ることなんです。でも、誰もそんなこと言わないし、言えないじゃないですか?」

「えっ・・・とう・・・」

なんとも言えなかった。そのまま答えなかった。

Hさんは、決して非情な人ではない。生徒にも同僚にも親身になってくれ、そして、ユーモアのある、たのしい素敵な先生だった。

 

その後も、Hさんの問いに答えられないまま、授業ではとおりいっぺんの環境問題を取り上げてきたが、今も、自然破壊や、不条理な動物の死を耳にするたびに、Hさんの言葉を思い出す。

 

なんで熊は死ななきゃいけなかったんだ。

自然の中で生きて、自然のままに、冬ごもりの準備をしていただけなのに。

人間と自然との共生・・・

自然の中で生きることを止めて、自然を支配しようとする側にいるかぎり、「人間と自然との共生」という言葉は、虚しく響くだけ。