高木佳子歌集『玄牝』より
水搔きを持たざるゆゑに人間はもがきてけふを掴めずにゐる
みづからもパノプティコンの中にゐて歩みてゐるを知らぬ稚さ
紙白く桃を包めばつつまれて桃はこの世にあらざるごとし
高木佳子
そこには透徹した眼差しがある。「共感します」などとは軽々しくいえない。人の痛みを思うことはできるが、その痛み、わかりますよ、などというと、作者をいたく傷つけてしまうだろう。
作者が住まう福島は、いまだ消えることのない痛みを抱えている。その地にしっかりと根をおろしているひとであればあるほど、中途半端な共感や慰めなどは無用だと思うに違いない。
ただ、まわりのものは、そこで何があったのかを忘れないこと。見つめ続けること。本当の苦しみがわからないまでも、近づいてゆこうとすること。それしかないのだと思う。
それにしても、
痛みも苦しみも、言葉のなかで昇華されて、香しくさえ思われる歌が多い。